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SNSの投稿がきっかけで大論争に発展
先日、某大手企業に勤めていた男性が、”育児休暇明けに突然の転勤を言い渡され、時期を少し後にしてほしいとお願いしたものの、聞き入れてもらえずに退職を決意、その意思を伝えると、有給休暇も取らせてもらえず、退職日まで決められてしまった”、という内容のSNSが拡散し、ネット上でもいろいろな意見が乱れ飛んでいます。
SNSを投稿したのは、男性の配偶者で、その配偶者も仕事しており、彼女の復帰のために子どもたちの保育園への入園手続きも終え、新居に引っ越したばかりという状況で、父親である男性が転勤するということは、これからの仕事と育児を考えると不安しかなく、そのためにSNSに心情を吐露したとのことでした。
ネット上の意見は様々 この投稿を見た多くの人の意見は様々で、
- 育児休暇を男性が取ったのが気に入らなくて報復人事のようだ
- なぜ育児休暇明けに突然転勤なのか?ひどすぎる
- その時期に転勤しなければならないわけではなさそうなのに、なぜ時期の要望を聞き入れてもらえないのか?
- 転勤の件は”会社あるある”だとしても、有給を取らせてもらえなかったり、退職日を会社に決められるのは労働基準法違反ではないのか?
といった、男性擁護の意見から
- 転勤があるとわかっていて勤めていたのなら仕方がない
- 一社員の要望をすべて聞いていたら会社が回らない
- 転勤がある分給料が高かったはずだから、転勤拒否はただのわがまま
- 転勤に関しては、会社は違法なことはしていない
といった、会社擁護の意見までありました。
そんな様々な意見の中に
この某大手企業はくるみんマークの認定を受けていた実績があるのに、育児休暇明けの社員に対してこんな仕打ちはどうなの?
というものがありました。
くるみんマークとは?
恥ずかしながら、このくるみんマークというものを、私は知りませんでした。
調べてみると、くるみんマークは、次世代育成支援対策推進法に基づいてできた認定マークだそうです。
次世代育成支援対策推進法とは、2003年に施行された法律で、”次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、かつ、育成される社会の形成に資する(第1条)”ことが目的だそうです。
まぁ、簡単に言ってしまうと、このまま少子化が続くと国力が落ちてしまうので、少子化問題を少しでも解決するために作られたということですね。
その次世代育成支援対策推進法の第5条に ”事業主は、基本理念にのっとり、その雇用する労働者に係る多様な労働条件の整備その他労働者の職業生活としょ家庭生活の両立が図られるようにするために必要な雇用環境の整備を行う事により、自ら次世代育成支援対策を実施するよう努めるとともに、国又は地方公共団体が講ずる次世代育成支援対策に協力しなければならない” とあり、101人以上の労働者を雇用している会社は、労働者の仕事と子育てに関する「一般行動計画書」を都道府県の労働局に提出する義務があります。(労働者が100人未満の会社は努力義務があります。)
男性が働いていた某大手企業は、もちろん労働者が101人以上いるので、この「一般行動計画書」を提出していることになります。
一般行動計画書には、子育てしている労働者や独身の労働者に対する労働条件の整備の目標(例えば、配偶者の出産前後に時短勤務を希望することができる、や、子どもが生まれてから半年は週に1回在宅勤務を可能にする、など)を書かなければいけません。
そして、この「一般行動計画書」の目標を達成し、かつ厚生労働省が定めた要件をクリアして初めて、くるみんマークが取得できるのです。
くるみんマーク取得の要件とは?
くるみんマークの取得の要件は
- 行動計画を策定したこと
- 計画期間が2年以上5年以下であること
- 計画の目標を達成したこと
など色々ありますが、その中の1つに”男性の育児休業等”に関するものがあります。
その要件というのが
- 計画期間において、男性労働者のうち、配偶者が主産した男性労働者に対する育児休業等を取得した者の割合が7%以上であること
- 計画期間において、男性労働者のうち、配偶者が主産した男性労働者に対する育児休業等を取得した者及び育児休業等に類似した企業独自の休暇制度を利用した者の割合が15%以上であり、かつ、育児休業等をした者の数が1人以上いること
の2つで、上記のいずれかを満たしていないといけません。
某大企業はくるみんマークを取得していたという事なので、退職した男性はこの要件を満たす大切な役割を果たしていたということができますよね。
くるみんマークを取得するメリットは?
一般行動計画書が作られることにより、労働環境が改善されるのは、労働者にとってありがたいことです。
では、会社がくるみんマークを取得するメリットはあるのでしょうか?
もちろん、あります。
くるみんマークを取得すると、会社のイメージアップになります。イメージというのは、会社にとってもとても大事で、くるみんマークを取得している=子育てに対して理解がある会社ということをアピールできます。
子育てに全く理解のない会社より、ずっとずっとイメージが良くなりますよね?
その上、厚生労働省のホームページに会社の名前が掲載されます。これは・・・まぁ、メリットと言えばメリットですが・・・これを目標に会社が必死で努力するかというと・・・どうでしょうね?
そして、職場環境がよくなるため、途中退職などの人材流出が防げます。確かに、人材流出は会社にとって大きな損失です。しかし、不況時代の今、多少環境が悪くてもコンスタントにお給料がもらえるのなら、ちょっと我慢して働き続けようと思う労働者も多いでしょうし、会社もそうにらんで多少労働環境が悪くても大丈夫と改善の努力をしていないパターンも多い気がします。なので、労働者が辞めないようにがんばってくるみんマークを取得しよう!と思う会社もそんなにないような・・・。
最後に、税制優遇が受けられました。(この税制優遇は平成30年3月31日で終了している模様です。)多分、企業がくるみんマークを取得しようと頑張った一番の理由でしょうね。
この税制優遇は、別名くるみん税制とも言われていました。
一般行動計画書で計画され、実際導入された資産について、割増償却ができたのです。 建物及び建物付属施設を導入した場合、24%、車両・運搬器具及び器具・備品を導入した場合、18%の優遇が受けられたのです。(労働者が101人以上の会社の場合)
これによって、法人税が安くなるというメリットがありました。
くるみんマークを取得していたことが火に油だった?
問題の某大手企業は、2009年と2013年にくるみんマークを取得していました。 そうなのです、厚生労働省の設定した要件をクリアしていた、ということなのです。 某大手企業は、子育てサポート企業と認定されていたのです。
しかし、実際蓋を開けてみれば、育児休暇明けの男性社員を転勤させるという、子育てに協力してくてもできない状況に追い込もうとしていたわけです。
くるみんマークの取得要件に挙げたとおり、男性の育児休業等の取得人数というのは重要なのです。 人数の実績を作るために男性に育児休暇を取ることを勧めているにも関わらず、育児休暇明けからは子育てサポートなんて関係ないという行動を取ったことが明るみに出てしまっては、2013年度にくるみんマークを取得した時に、育児休暇を取得した男性はその後どんな扱いを受けたのだろう?とうがった見方をしてしまいますよね。
それに、くるみんマークを取得した他の会社までそういう目で見られてしまっては、きちんとまじめに取り組んでいる会社にとってマイナスでしかないですよね。
くるみんマークを取得していない会社が、同じようなことをしても反感を持たれる可能性が高いのに、まさかくるみんマークを取得して”子育てに協力してますよー”とアピールしていた会社がそういうことをしてしまったために、火に油を注ぐ様なことになってしまったのでしょうね。
くるみんマークがきちんと使われますように
今や、公的年金は当てにしないでくださいと国が堂々と宣言してしまうくらい労働人口の減少は問題となっています。 くるみんマークの認定が欲しいためだけに書類上の実績を作るのではなく、本当に子どもたちのためを思って労働環境の改善が行われるといいなと思います。