アメリカで高血圧の定義が130/80mmHgとなったので、欧州高血圧学会が注目されていましたが、高血圧は140/90mmHgと今までと同じ基準のままで維持され、降圧目標が「忍容性があれば」130/80mmHg未満に引き下げられました。
「忍容性」という聞きなれない言葉がでてきましたが、この忍容性とはどういうことなのでしょうか?
目次
忍容性と翻訳する前の英語原文でみる欧州高血圧治療ガイドライン
簡単に治療目標を「忍容性があれば…」なんて書きましたが、欧州のガイドラインでは、糖尿病や高齢者などの場合分けをして治療目標について詳細に言及しています。高血圧に興味がある方は英語の勉強と高血圧の勉強を兼ねて読んでみるのも面白いですね。
この中で一般的な場合の治療目標がまとめとして出てきているのが、2章イントロダクションと12章キーメッセージのところでしょう。
そこに、「忍容性」と訳される「tolerated」がでてきます。
それでは、みていきましょう。
2.1 What is new and what has changed in the 2018 ESC/ESH Arterial Hypertension Guidelines?
この2.1では、2013と2018の違いについて、表でまとめてあります。
表中で、2018年の「BP treatment targets」で以下の引用のように well tolerated という言葉がでてきます。(BPはblood pressureで血圧という意味です)
It is recommended that the first objective of treatment should be to lower BP to <140/90 mmHg in all patients and, provided that the treatment is well tolerated, treated BP values should be targeted to 130/80 mmHg or lower in most patients.
https://academic.oup.com/eurheartj/article/39/33/3021/5079119
簡単に訳してみると、「すべての患者の当初の目標は140/90 mmHg未満に降圧することだが、忍容性があればほとんどの患者で130/80 mmHg以下にするのが推奨される。 」ってことですね。
12 Key messages:How low should SBP be lowered?
12章は質疑形式になっており、その中での一つの質問が、「
How low should SBP be lowered?」です。ここでの、SBPとは、「
Systolic blood pressure」の略であり、収縮期血圧(最高血圧)の意味です。どのように最高血圧を下げればよいかということについてまとめられています。
その中の忍容性がでてきそうなところを引用します。
There is also evidence to support targeting SBP to 130 mmHg for most patients, if tolerated. Even lower SBP levels (<130 mmHg) will be tolerated and potentially beneficial for some patients, especially to further reduce the risk of stroke. SBP should not be targeted to <120 mmHg because the balance of benefit vs. harm becomes concerning at these levels of treated SBP.
https://academic.oup.com/eurheartj/article/39/33/3021/5079119
簡単には「忍容性があれば130mmHgがほとんどの患者で目標になるが、さらに血圧を下げると心臓や脳卒中のリスクが下がるが、120mmHgより低くするのは、利益と不利益のバランスを考えると目標にするべきではない。」ってことですね。
「忍容性」とは?
さて英語の「tolerated」が訳された「忍容性」ですが、高血圧薬をはじめ薬学系でよく使う単語です。認容性ともいうようですが、あまり見たことありません。
忍容性とは、医薬品には必ず副作用があるとの前提で使われる言葉です。すなわち、医薬品によって起こる有害な作用に患者がどれだけ耐えられるかの程度を示したものが忍容性になります。
忍容性が高い薬物と忍容性が低い薬物
副作用があったとしても患者が十分に耐えられる程度であれば忍容性が高い薬物となります。
逆に、忍容性が低い薬物の場合、他に有効な薬物がないほど有用な薬物でない限り、医薬品にはならないといえます。
高血圧治療における忍容性
それでは、高血圧治療に対する忍容性に関してはどうでしょうか?
調べてみましたが、降圧の治療に関して忍容性を判断する明確な基準はないようです。つまり、患者個人個人に対して、高血圧治療による身体的精神的影響が出ていないか確認しながら忍容性の判断を行うことになります。この身体的精神的影響は、血圧の低下により起こる場合と、降圧薬そのものの場合、そして不定愁訴の場合もあります。
この因果関係を確認して、それを治療に結び付けていく必要があります。
高血圧治療において忍容性がないと判断される場合
ちなみに、認知症、経済事情、患者の性格や生活環境 により降圧薬の選択や増量が困難な場合は忍容性がないと判断されるようです。
忍容性と安全性の違い
忍容性と似ている単語に安全性があります。
医薬品の安全性とは、その薬品が使われた人(被験者)への医学的リスクに関するものです。患者はもちろん健康な人でも調べられています。また、最初は、動物実験による安全性の確認もあります。
人への安全性は、通常、臨床試験によって評価されます。すなわち、臨床化学検査、血液検査、心電図、眼科検査などが行われ、臨床的な有害事象がないかどうか確認されます。なんらかの徴候が起こってこないか、症状や疾患が発生しないかが確認されます。
もちろん、安全性が100%になることはなく、医薬品には多かれ少なかれ有害なことが起こる副作用もあります。その副作用が被験者にとってどの程度耐えられるかどうかが忍容性ということになります。